番外編「稲荷と麒麟の二人旅」8

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 走り出し、がむしゃらに町を駆け抜けたは良いが……いや、別に良くはないが。とにかくどこでどう道を間違ったのか、いやそもそも地図が頭に入っていないのだから間違ったと言うより単に迷ったといった方が正しいのだが、さんざ走り回ったあげく結局脚がつかれ、立ち止まったのは駅の真ん前、噴水のある広場であった。解せぬ。
 涙は未だ止まらず、鼻水も出始めて、恐らく自分の顔はぐしゃぐしゃだ。想像に難くないし、想像はしたくない。
 周囲から無駄に関心を引いているらしく、ちらちらこちらを見てくるケンタウロスや、難破してくる阿呆もいた。まあ、そういう輩は無視をしていると自然にいなくなったが。
 しかし、だ。
 なにも、振り払って逃げることはなかったのではないか。
 別に彼女は悪気があってしたわけではないだろうし、自分も驚いてつい逃げてしまっただけなのだ。
 彼女を傷つけてしまったかもしれない。
 敵同士なのだ、傷つけることに何の呵責もない。昨日までの自分なら確かにそう思うだろう。今でも心の奥、深い闇からそんな声が聞こえないでもない。
 けれど、彼女は今日、あんなに良くしてくれた。きっと、落ち込んでいる自分を見て元気づけようと連れ回してくれたのだと思う。何故そう思う? それは、彼がしそうなことだからだ。彼ならきっと、落ち込んでいる人を見たら誰かれ構わずああして街へ連れ出し、お得意の軽口で元気を取り戻させるだろう。麒麟は――花梨は、それをした。それをできた。
 自分がしたのは? そんな花梨に憎まれ口を叩き、差しだされた手を拒んだ。哀れで、みじめで、愚かだ。これで彼とともにいたいなどと、笑わせる。
 彼の隣は、誰にふさわしい?
 大きな角を持つ、銀髪が頭に浮かんだ。
 嫌で嫌で仕方がない。彼が花梨に取られるのは、嫌だ。絶対に嫌だ。
 しかし、冷静な頭で客観的に考えれば、彼にふさわしいのは誰か? それは、彼女なのだろう。今まで出会ってきた鴉より猿より花より大熊猫より、河童より。
 でも。
 それでも、彼の横にいるのは自分でありたい。
 我がまま甚だしい。そんなことはわかっているが、だからと言って自分は身を引くなどとは考えられないし、彼との旅を捨てる気はない。彼が誰かとどこかに残ろうとしたら、その時は引っ張ってでも旅を続ける。
 それを、貫く。
 我がままを貫き、自らの柱とする。譲れない一線とする。
 自慢できることでも、誇れることでもない。それはどちらかと言えば恥ずべきことであるはずだし、大きな声で言えるようなことではない。
 だけど、それでも。
 もうただ漫然と、なんとなくで彼との旅を続けるのではなく、彼が戻ってきたときにこそ。彼と再び出会い、もう一度旅を始めるときにこそ。
 この冒険の始まりで、言えなかった言葉を、自分の言葉を。彼に、伝えよう。
 覚悟を決め、視線を上げる。
 夕日が、山へと姿を隠そうとしていた。
 町には明かりが灯り始め、人々は家路へ急ぎ――あるいは数人連れで小料理屋へと入っていく。
 深呼吸をすると、空気は爽やかで、乾いていた。
 気づけば涙も乾いている。鼻水も、もう出ていない。
「――良い町じゃな」
 独り言である。淋しい女だ。
 さて、きっと彼女は列車に戻っているだろう。そろそろ――
「でしょう!」
 背後から、張りのある声。

 噴水へ落ちそうになったことは、言うまでもあるまい。

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