異世界の歩き方「お前の耳はロバの耳」8

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「さて! そろそろ買い物にでも行くか!」
 随分偉そうなことを言ってしまった。
 場の空気も重くなってきたし、潮時だろう。
 そう判断して、ことさらに明るい声でミリルに声をかける。
「あ、ああそうだな」
 彼女は少し戸惑ったように、そう答えた。

 結論から言えば、誠に遺憾な事態であった。
 買い物自体はすぐに終わった。特に何の支障もない。ぼったくり商人とミリルの間で値引き交渉が少々あった程度である。そんなことは取るに足らないことである。
「はあ……」
「どうした? さきほどから溜息ばかり」
 ミリルが顔を覗き込む。
「いや、何でもない」
「なにか、私が気分を害してしまっただろうか」
 心配そうである。なんだか悪いことをしている気分だ。
「本当に何でもないんだ」
 こんなに心配してくれているからこそ、逆に言えないのだ。阿呆すぎて。
 何が? いやその……星肉は、干し肉だったのである。それはそうだ。キラッ☆肉とか想像していた過去の自分を小一時間ほど問い詰めたい。何を言っているのかわからないと思うが、俺もなんでそんなこと考えていたのかわからなかった。恥ずかしさで頭がどうにかなりそうだった。勘違いとか異世界に対する過度な期待とか、そんなチャチなもんじゃ断じて無い。もっと恐ろしい中二病的な何かの片鱗を味わったぜ……
 いや、だが待て、待ってくれ。
 異世界に転移したんだから、そこで「ほしにく」なんて聞いたらきっと星肉を想像してしまうだろう。誰だってそうする。俺だってそうする。だがこの世界はまたしてもファンタジー的解釈を拒んだのである。ぐぬぬ……
「……ええと、兄上達遅いな」
「ん。ああ、言われてみれば」
 そろそろ待ち合わせの時間からは半刻ほどになろうという時刻である。
「もしかすると、構内にいるのか?」
 駅舎を見る。まあ、小国とはいえども首都という趣はある、立派な建物だ。
 待ち合わせを駅としか決めていなかったのは、正直致命的な問題に思える。大丈夫なのだろうか。
「では、入ってみよう」
「だな」
 二人して、はぐれぬように手を握って入っていく。清華皇国の主要都市での悪夢のような混雑に比べればまだましであるものの、ここも十分に本来の収容数を上回っていそうな人波である。
 結果。数分で俺達は合意に達した。無理だ、ここで探すのは。
「出よう、出よう」
 流れに逆らって、泳ぐように人波をかき分けて進む。と、
「お、何だあれ? あの掲示板随分こう……にぎやかだな」
 上から上から、どんどん張り付けていったらこうなりました、というような調子で、ある種異彩を放っている。なんだろう、あれ。
「あれは、個人が連絡番としても使えるんだ。あ、兄上が伝言を残してるかもしれないな」
「見てみるか」
 なんとか、隙間を縫うようにして掲示板の前へ辿り着く。
 周囲では、多くの人が誰かへの手紙を書いていた。
「へえ……なかなか面白いのも多いな」
「さて、兄上兄上……」
 とりあえず、彼女とは反対側から、こちらも捜していく。と、見覚えのある綴り。Bernicks……ニコラだ。
「おい、ミリル。これ……」
「お、これは……ベルニクスさんあての手紙か、取っておいた方がいいな」
「だな」
 剥がしてみる。差出人はエルノリクとなっていた。確かお供の女性将校であったと思う。
「ふうん……」
 なんというか、少々羨ましいのは否定できない。
「お。これ、貴様宛てではないのか?」
「へ?」
 見れば、ミリルが指差すのは二枚並んだ、俺宛の手紙。花梨のものは、冷静に今後の各駅での待ち合わせ場所や連絡方法などについてが書かれている。それに対して、ひめのは……もう少し何とかならなかったのだろうか。
「これは、あの仔狐が書いたのか」
 覗き込み、ミリルが言う。
 手紙には、たった一行。

 無事を祈る。

 彼女のことだ、ああでもないこうでもないと書いては消しを繰り返していたであろうことは、想像に難くない。まあ、確かに伝わるけどなあ……と思い、少し仰ぐようにして見る――あ。
「あいつ……可愛いな」
「なんだ? どうしたいきなり?」
 適当にはぐらかし、懐にそっと手紙を忍ばせる。これは、彼女の名誉の為にも――そして、俺のちょっとした独占欲の為にも、ミリルには見せないことにしよう。そう決めた。

 光に透かしたその手紙には何かで濡れた、水玉模様が浮かび上がっていた。

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