「黒竜海峡冬景色」9

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「お断りじゃ」
 きっぱりと、ひめが。コンマ一秒程度の間で撃ち返す。西部のガンマンもかくや、という見事な早うちである。
「……だめですか?」
「うーん」
 まあ、なぁ。
「俺としても、お断り申し上げたくはあるな」
「え」
 ひめがこちらを見る。まるでヒマラヤの奥地で幻の珍獣を見たような目である。ちなみにその子供が、かの有名なム○ク氏であることはあまり知られていないのですぞ。
「なぜです?」
「なぜって……こんなこと言うのは柄じゃないし、ちょっと厳しいかもしれないけど」
 様子をうかがう。まあ、そこまで本気ではなかったようで、反応は薄い。少々ほっとしながら、
「あんたは、自分は全く悪くなかったと思うか?」
「……」
「どうだ?」
「まあ、それは……思いませんが」
 目をそらし、唇を尖らせる。
「だろ? それじゃ連れてはいけない」
「どうしてです!」
 再び目を合わせ、睨むような視線を見せる。力がこもっているのか、袖から鋭利な輝きが見えた。おお、怖い怖い。
 しかし、退くわけにはいかない。
 以前の俺であれば、こんな脅しめいたことをされるまでもなく、頼まれれば二つ返事で同行を許していただろう。だが、清華と烏孫での、ひめを危険にさらした経験が、俺の中で一つの結論を生みだしていた。
 まず優先すべきは、大切な仲間である。もちろんひめはその筆頭であり、要するに彼女への危害は最も避けなければならない。
 と、ここまでは流石に恥ずかしいのでタオルに包んで胸中に収め、
「事情を詳しく知らないのに、偉そうに言うのは悪いけど。多分、自分の非をわかってながら、怒りにまけて、斬ったんだろ?」
「……」
 彼女が目を伏せる。ちょっと厳しすぎるよな。とは思うが、
「まず、すべきことがあるんじゃないか? ペドロは」
「すべきこと……」
 少し、視線が宙を泳ぐ。え、そんな迷うことじゃないだろ……
「証拠隠滅――口封じですか」
「違うわ!」
 思わず声を荒げてしまった。
「ごめんなさいだよ」
「はあ、別にかまいません」
「そうじゃねえよ!」
 首をかしげる。マジか。ゆとり教育の弊害、甘やかされたことによるシャザイデキマセン人の完成だとでもいうのだろうか。実に迷惑な話である。
「お前がその彼に、謝るんだよ。決して俺がお前に謝るんじゃなくて」
「……」
 再び沈黙。
「悪かったと思うんだろ?」
 なんにせよ彼と決着を付けるまでは、彼女は前に進めないだろう。それにもしかしたらよりを戻せるかもしれない。
 彼女は押し黙って、視線をぶつけてくる。窒息しそうな空気だ。ひめは外を向いており、助け船は期待できない。
 と、
「…………そうですね」
 袖から出ていた輝きが、引っ込んだ。おお、怖い怖い。
「またあっちに」
 指をさす。方向は船尾――その向こうのアルガムジだろう。
「戻ります。ご縁があれば、また」
「おう」
 彼女は、最初見たときとは違う、憑き物の落ちたような顔をしていた。これなら――結果がどうあれ、問題はなさそうだな。

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