異世界の歩き方「沈黙の客船」9

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 船は、エンジンに水がかかったとかでなかなか動けないそうだ。一晩をその場所で明かすことになった。
「いくら夏とはいえ、この谷は夜は冷える」
 ひめと、ぼんやり湧き出てくる泡を見ていると、彩香が気を利かせたか、わざわざ毛布と熱燗を片手に出向いてきた。
 言われて気づくが、確かに少々肌寒かった。
「すまん」
 受け取って、ひめと共に毛布にくるまる。
「良いってことよ。嫌なもん見さしちまったからな、せめてもの穴埋めってとこだ」
「あの列車はどうなるんだ?」
「どうなるってそりゃ……なかったことになるさ」
「?」
「彼らは列車には乗ってなくて、今日も高速鉄道は無事故で運行ってことだ」
「そんなのありえるのか」
「この国じゃ人の命は紙っきれ一枚より軽いさ。そんで、特にあたしら」
 彩香がひめの方へ眼をやる。彼女は神職らしく、先ほどから何やら口の中でもごもご呟いていた。大分堪えているようだ。かくいう俺も、死体こそ見たことはあるが、こうしてじかに苦しみながら死んでいく人間を見るのは初めてである。嫌なものだ。
「亜人の命は、更に軽い。お連れさんが大事なら、まあ口を噤むことだな」
「……」
「どした?」
「…………」
「いやいや! 別に今噤む必要はねえさ! 陸では……特に都では、だな」
「ああ、これからはずっと無言生活を強いられるのかと思ってあまりのいたたまれなさに絶望しかけたところだった」
「わざとやってんだろ?」
「わりと」
「かああーっ! あんたいっつもそんな調子なのか?」
「まあ、わりと」
「暖簾に腕押したぁこのことだな。ったく、ひめちゃんも苦労しようもんだぜ」
 ふうやれやれ、と彼女がため息をつく。残念ながら全く話が見えない。なんでひめが出てきたんだ。
「わっ、妾は苦労などしておらぬわっ」
 ひめが、自分の話題を嗅ぎつけたか、会話に割って入る。
「もう祝詞は良いのか」
「んむ。済んだ……彼らにとっては異国式だろうがの」
「ありがたい、神官様だったか」
 彩香が手を合わせる。
「船長!」
「……あいよ!」
 どこからか呼ぶ声に、酒を置いたままふらふらと階段を下って行った。
「ひめ、お前はすごいな……俺は駄目だ。何の役にも立てない」
 改めて、この世界での無力さを感じる。異邦人どころの騒ぎではない。
「そ、そんなことはない!」
 ひめが叫ぶ。気休めは……と言おうとするが、真面目な瞳に気押されて黙る。
「お主は……」
 熱っぽい視線。近づく。
「おい、お二人さん! 良い雰囲気のところ悪いが!」
 彩香の声に、揃って飛び上がる。心臓が口から飛び出すかと思った。

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