番外編「稲荷と麒麟の二人旅」2

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 列車は停まることなく、烏孫首都アルタイ駅に滑り込んだ。
 あの日、一緒になって頑張ってくれた軍人たちは、その後も随分気を懸けてくれた。
 特に、例の女性士官――エルノリク男爵家のヘレンと名乗った。本名は気が遠くなるほど長かった。貴族というやつだ――彼女は、毎日のようにコンパートメントを訪ねては、気がすむまでベルニクス高等官についてあれこれ話してくる。随分心酔しているようだ。が、正直奴は割とどうでもいい。
 今思えば遥か昔に感じられるが――数ヶ月前、彼がこちらに現れるまでは、自分もベルニクス高等官にあこがれのようなものを持っていた。
 亜人にとって、彼はヒーローなのだ。
 真人でありながら、帝国の種族隔離法を廃止するなど数々の快挙をなしている。
 昔は新聞で彼の名を隅々まで調べたものだった。
 それが、今では主だった活動も知らない。
 本人を見ても、気づかなかったほどだ。
 まずい。と思う。
 まずい、自分は気付かぬうちに、どんどん――まだ、数カ月しか行動を共にしていない――彼のことばかり、考えるようになっている。
 彼にとって、自分は単なる旅の道連れに過ぎない。
 自分は、所詮偶然彼に出会って救われただけで、彼にとっては偶然救った人のうち、一人なのだ。
 彼は――なぜだか知らないが――やたら、道すがら多くの人を助ける。目の前で、何やら話しかけて来ている麒麟もその一人だ。
 麒麟の命を救った時、彼は何とも手際が良かった。自分はぼうと突っ立って見ていることしかできなかった。ひょっとすると、向こうで大学生だった彼は、そういった仕事を目指していたのではないかと考えている。
 しかし、聞くことはできない。
 向こうの話を聞くのは、怖い。
 彼が懐かしそうな表情をするたび、心が締め付けられる。
 戻る方法を探さずに、こうしてひたすら旅をするというのは、単に我がままに付き合わせているだけなのではないか。そう、思ってしまう。きっと彼は、そんなことなど思ってはいないはずだが――恐れずにはいられないのだ。
 それに、今は麒麟がいる。まだ奴は、彼がこちらの住人ではなかったことを知らない。そして知らせたくない。
 二人だけの秘密。だ。
 少々ずるいとは思うが、最初に出会ったモノの特権として、この程度は認められる、だろう。多分。うん。
「聞いてるんですか! ねえ!」
「……お主、さっきからうっさいのう」
 完全に聞き流していた。聞き流すだけで身につく西域語のレコードを思い出す。一時期使っていたが、あれで身について、とっさに飛び出て来たのは「Oh……」くらいのものであった。その事実が「Oh……」である。そんなに簡単に身に付いたら苦労はしないのだと改めて思った。
「聞いてなかったんですか!?」
「少なくとも身についてはおらぬな」
「何を言ってるんですか!」
 やたらうるさい。
「端的に言えば、うむ。聞いておらんかった」
「ぐ……」
 黙り込んでしまう。会話って難しいな。
 今まで、同年代の人とまともに会話したことなど殆どないのだ。少々コミュニティ障害である自覚はあるが、こうして二人になってみると、彼との会話が以下に気が楽であったか分かる。
「ほら、行きますよ!」
「は?」
 いきなり手を握られ、困惑する。すまんちょっと何言ってるか分からない。
「いつまでもウジウジしない! さあ、散歩です! 行きましょう!」

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